「きっかけはひとりの学生さん」
闘病記文庫ができたきっかけはひとりの学生でした。病気については講義やテキストから学べるが、患者の治療に対する不安や社会生活での苦労などはなかなかわからない。闘病記はそういった患者の心情を理解する手助けになるので、ぜひ図書館にコーナーを設置してほしいという熱い要望があり、平成二十年三月に開設されました。
*奈良医大闘病記コーナー案内文より抜粋。
当時の学生さんの要望により設置され、開設当初は370冊ほどだった闘病記文庫も今では1,300冊を超え、闘病患者さんの手記を中心に、「がんサポート」や「薬のチェック」、「難病と在宅ケア」など、闘病や患者さんのご家族のサポートになるような雑誌も配架しています。
設置から10年以上を過ぎて当初の目標だった1,000冊の蔵書を超えたこともあり、ブログで少しずつ当館の闘病記をご紹介できたらと思います。
▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪
まず最初にご紹介するのは、松永正訓著「ぼくとがんの7年」(医学書院 2021年12月)。こちらは、現役の小児がん外科医が膀胱がんの闘病を綴った手記。医師としてがんに向き合ってきた人が患者としてがんと向き合うとき、どんな思いを持つのだろう?と手にとりました。
闘病記は割と、病気をポジティブにとらえる題名や見出しが使われてたりするのを見かけるんですが、この本では、あとがきではっきり病気になってよくなかったと書いてあるのを見て、すごいリアルだなと感じました。医師としての経験と患者としての体験として、闘病生活を率直に記していて、これが”闘病”という印象を受けました。
▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪ ▪
興味深かったのは、病気であることを人に話すかの基準。
最初は本当に親しい人だけと考えているところから、病気を乗り越えた時点で、ある程度の付き合いのある人には話せると変化したところ。
病期の段階や、その時の心情や状況や、元々の性格によっても、人との関わり方に望むものは違ってくるんだろうなと思いました。でも病気に関わらず、付き合い方ってそれぞれだったりしますしね。病気だから今まで親しくしてきた人と距離を取りたくなるわけでもないと思うし、逆に病気だから同じ境遇の人と仲良くなりたいと皆が思うわけでもない。
かえって、何の知識もない人の方が気楽ということもあるかもしれないし。本人が話したいと思う人に聞いてもらえるのが一番なのかも。
結局のところ、人と関わるということは、常に難しい。
多分、病気になると余計なんじゃないかな。だからこそ、寄り添って想像してくれる人の大切さというか。傾聴ってそういうことかもしれないですね。
*闘病記文庫は一般利用者の方への貸出も可能ですが、残念ながら現在は学外の方はご来館いただけなくなっております。お近くの公共図書館から当館の闘病記文庫を借りることは可能です。公共図書館の窓口にご相談ください。